ゲームは、現在世界最大のエンターテインメント市場の地位を確固たるものにしています。その規模は音楽業界やハリウッドさえも上回ります。ゲームデベロッパーやパブリッシャーにとって最も収益性の高い市場と言えます。
エンターテインメント業界で唯一ハイテク分野でもあるのが、ゲーム業界の特徴です。シリコンバレー革命の中から生まれ、常にイノベーションを牽引してきました。ゲームの購入の仕方は、映画、本、音楽とは異なります。ゲーム会社が収益を得るために利用するイノベーションにより、予期しない副作用がもたらされることもあります。
ゲーム業界では、直販以外にどうやって収益を上げており、ユーザーである私たちにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
サブスクリプション
オンラインのマルチプレイゲームでは、サブスクリプション型の月額または年額の収益化モデルが導入されています。プレイヤーは、定額を支払うことでゲームをプレイし続けることができます。オンラインゲームでは、継続課金のおかげで、継続的なサポート、アップデート、改良などのサービスを受けることができます。
フリー・トゥ・プレイ(F2P)
「フリー・トゥ・プレイ」という言葉は、本来とはやや違った意味で使われるようになっています。もともと、初期費用やサブスクリプションもなく、ゲームを無料で提供しつつも、提供元が収益を得られる仕組みのことを指していました。つまり、ゲーム自体は無料で提供されるものの、ゲーム内でオプションの機能を利用するには追加料金が必要という課金方法です。追加料金を払うことで、ゲーム内でのアクションが速くなったり、レアなゲーム内アイテムが入手できたりします。現在、フリー・トゥ・プレイの収益モデルとして非常によく使われているのが「ガチャ」です。プレイヤーは、ゲーム内通貨を実際のお金で購入し、ゲーム内のボックスを開きます。ボックス内にはレアまたは強力なゲーム内アイテムや限定アイテムが入っている可能性があります。ただし、プレイヤーの欲しいものが必ず入手できるわけではありません。
フリー・トゥ・プレイの収益方法は、現在あらゆるゲームで活用されています。マルチプレイ向けのパッケージゲームにも、ゲーム内課金の要素が組み込まれていることがあります。
ゲーム内広告
ユーザーには直接課金させずに収益を上げる方法もあります。それがゲーム内広告です。モバイルゲームで多く活用されており、ゲーム内広告の市場規模は拡大し続けています。コンセプトはシンプルです。ゲーム中で企業の製品の広告を表示し、ゲームの制作会社はその企業から対価を受け取ります。プレイを続ける際に短い広告が表示されたり、映画で企業の商品が出てくるようにゲーム内に商品を登場させる形をとったりします。『マリオカート』でメルセデス・ベンツを運転できたり、『ザ・シムズ』でコカ・コーラの自動販売機を購入できる例などがあります。
ライブサービス型
ライブサービス モデルは、ゲーム市場の最新トレンドのひとつです。直販モデルとフリー・トゥ・プレイ モデルを組み合わせたような形態で、さまざまな手法での収益化が期待されています。ライブサービス型ゲームの特徴は、提供開始後も継続的にユーザーに課金を促すよう設計されていることです。フリー・トゥ・プレイの仕組みのみ活用されているケースや、シングル プレイヤー ゲームをサブスクリプション購入させるという方法もあります。
ライブサービスモデルの実装には反発もあります。最近では、『Anthem』というゲームでライブサービス機能を導入し、キャラクターのスキンや衣装の販売、オンラインでの協力プレイ機能を提供しました。しかし、売上が思わしくなかったこと、ゲームリリース時の問題に起因するエンゲージメントの低さ、ゲームの設計上の問題により、失敗とみなされています。
このようなゲームやシングルプレイのゲームでもオンライン接続を必要とするライブサービスモデルは、ユーザーの間でも論争の的となっています。しかし、少なくとも理論上は、ライブサービスモデルは開発者が収益を上げられる手法であるとともに、プレイヤーにより多くのコンテンツを長期的に提供することが可能な仕組みです。
ユーザーにとっての問題
ゲーム業界は、世界で最もダイナミックな業界のひとつです。急激な変化が起きることで問題が発生することもあります。大手ゲームパブリッシャーは反消費者的とみなされたり、ユーザーにとって有害であると非難の対象になることもあります。ゲーマーが直面する問題点の一部を以下にご紹介します。
積み重なる少額の課金
ゲームは魅力的です。それが、ゲームがエンターテインメント業界で世界最大の規模を誇り、成功を収めている理由でもあります。一度ゲームを始めると、もっとプレイしたくなる点がゲームが成功した鍵といえます。ゲームには病みつきになる性質があるため、子どもたちが中毒性の高いゲームやアイテム課金に何万円、何十万円も使って、両親が多額の請求を受けるような事態も発生しています。子どもたちだけでなく、親たちも自分自身をコントロールすることが出来ず、多額のクレジットカード請求を受ける場合すらあります。
ゲーム、それともギャンブル?
ガチャ(ゲーム内アイテムが入ったボックス)は、モバイル向けのマルチプレイゲーム、またはライブサービスゲームで収益を上げる手段のひとつです。その仕組みがギャンブルに似ているため、その是非がユーザー間でも議論されていますが、世界レベルで法的論争も起きています。従来のギャンブルはほとんどの国で厳しく規制されていますが、ガチャはこれらの規制には含まれていません。ベルギーやオランダなど、ガチャのシステムを法律で規制している国もあります。しかし、米エンターテインメント ソフトウェア協会(ESA)は、金銭の対価としてユーザーには何らかの価値提供が保証されているため、米国ではガチャはギャンブルにあたらないという判断が下されました。
ガチャがギャンブルであるかどうかに関わらず、心理的作用が似ているため、ユーザーはその中毒性に依存してしまう可能性があります。英国賭博委員会は、2018年11月に子供のギャンブル行動の増加とガチャには関連があると発表しました。中毒性の高いギャンブルにはまりやすい人は、ガチャの影響も受けやすく、深刻な経済的被害に陥っています。
グレー マーケット
ゲームはお金のかかる趣味になりうる可能性もあり、ゲーマーにとってお得な情報がとても魅力的に見えるのは当然のことです。そうした心理に乗じて、SteamやOriginなどのゲーム配信プラットフォームで使用可能なアクティベーションキーを安価で販売するサードパーティーのサイトが急増しました。消費者視点では法的な問題は全くありませんが、こうした業者がどのようにアクティベーションキーを取得しているかを把握することはできません。そういったサイトは闇市場ではありませんが、サプライチェーンにおいて公明正大である必要はありません。しかし、サードパーティーのサイトは現実的な課題も抱えています。
2015年、ゲーム会社Ubisoftはサードパーティーサイトを通じて入手されたゲームのアクティベーションキーを無効化しました。Ubisoftは、クレジットカード詐欺による損失への対策のためにこの取り組みを行いましたが、サードパーティーの業者から購入した「正当な」キーが突然機能しなくなったため、多くのユーザーは費用を払ったにもかかわらず、ゲームが入手できない状態に陥りました。グレーマーケットのサイトで、過去にプライバシー侵害が発生したこともあります。そのため、購入に問題がないかどうかを確認するため、ユーザーのPCへのリモートアクセスとコントロールを許可するよう求めている大手業者も存在します。
安全にゲームを楽しむには
プレイヤーからお金を引き出そうとするゲーム会社の巧妙な手口を回避して、ゲームを安全に楽しむにはどうすればいいでしょうか?
ペアレンタル コントロール
子供が親のスマートフォンを使ってゲームをする場合、ペアレンタルコントロール(保護者による使用制限機能)を有効にしておきましょう。AppleやAndroidでアプリ内課金を許可しない設定方法については、サポート ページで確認してください。ターゲット広告やデータの保護について懸念があれば、アバスト アンチトラック プレミアムなどのデータ保護ソリューションの活用をご検討ください。
また、家族がゲームでクレジットカードを使わないようにくれぐれも注意しましょう。
責任ある消費
ゲームの最も危険な側面は、ゲームをプレイすることは誰にも強制されていないという点とも言えるかもしれません。プレイヤーの頭に銃をつきつけて、ガチャの購入や魔法の石をより早く発掘するためにお金を使うように強制するゲームはありません。強制力がないこと、たとえ価値がなくてもガチャの中には必ず何か入っていることから、ガチャのプロセス自体は合法と考えられます。
デベロッパーがお金を稼ぐためには、ユーザーにとってできるだけ魅力的でなければなりません。そのため、高度な心理学を駆使して、ガチャを開ける時の期待と達成感を演出します。強迫行動やギャンブル中毒の傾向がある場合は、プレイするゲームを慎重に選ぶ必要があります。ユーザーとメディアの両方の評価を確認し、興味のあるゲームにガチャがあるかどうかなどを確認することで、リスクの高いゲームを避けるようにしましょう。
定評のあるゲームを購入する
安全にゲームを楽しむ上で最も重要なことは、リスクを冒さないことです。知らない会社や、違法行為を行っているもしくは加担している可能性がある企業は信頼しないでください。怪しいサードパーティーのアプリサイトで、ゲームを無料でダウンロードしないようにしましょう。マルウェアが組み込まれている可能性があります。セールや割引は魅力的ですが、「うまい話には裏がある」ということを忘れないようにしましょう。
また、他のオンラインサービスと同様に、個人情報やお金にまつわる情報を不用意に他人と共有せず、ゲームやコンテンツを非公式の業者から購入しないでください。
大事なことは、とても基本的なことです。ゲーム制作者には、制作したゲームから利益を得る権利があり、できるだけ利益を得ようとしています。技術的にも心理的にもグレーな手法で、ユーザーにできるだけ多くのお金を使わせようとしている可能性もあります。自分の身を守る上で役立つアプリもありますが、常にお金を騙し取られないように意識しておくことが最も重要です。