民主主義の世界では多くの場合、公的機関と民間の利害が一致することで、誤情報の定義が実現されており、互いに牽制しあっている。この敵対的なシステムの基盤となっているのが一般の人々である。
二つの全く異なる独裁政権を経験してきた筆者は、アメリカ人やヨーロッパ在住の人が「言論の自由」について議論しているのを見ると、少し不思議に感じてしまう。世界の約半数が、政権によって言論がコントロールされている権威主義の下で生きている中、そうした人たちとは全く無関係な法律や細かな意味について議論しているからだ。
このような議論が重要でないわけではないが、われわれは、政府の報復を恐れずに言いたいことを言うことができる贅沢さに感謝すべきだ。また、政府に何かを求める際には注意した方が良い。例えば、ある言論に対する政府の監視強化、制限、抑制につながるような法的手段を求める場合、あなたが望んでいない形でその法が適応されてしまう可能性があることも認識しておくべきだ。
政府に与えられた権力が国民に還元されることはほとんどなく、戦わずして還元されることもない。自分が支持している政治家が主導権を握っていて、自分にとって都合の良い状態のときには、このことを忘れがちだ。そのため、支持・反対に関係なく、すべての政治家に対する監視と制限が不可欠だ。
例えば、米国でのTrump氏からBiden氏への政権交代は、政策やレトリックが劇的に変化したことを示している。Biden政権はすぐに、前政権の政策を取り消す作業に取り掛かかっている。
しかし、これらの大統領令は、議会で審議、可決されたわけではないため、次の大統領によってまたすぐに取り消される可能性もある。
立法に必要な交渉などを行わずに、このように状況が大きく変化する場合、たとえ善意の意図があったとしても、そうした動きに対する過剰反応や予測できない結果を招くことがある。議会での議論は非常に時間がかかるが、それが美徳の一つでもある。議会で良いアイデアはほとんど出ない一方、多くの悪いアイデアも国会で消えている、と言われているくらいだ。
民主主義のルールを定義するのは公的機関と民間の力
言論の自由に話を戻す。
政府、特に行政府に多くの権限を与えると危険だ。フェイクニュースや誤情報をなくすためには、監視や規制が必要なことに加え、その情報を誤ったものと定義するだけでも、慎重な作業が必要になる。
言論の自由が絶対的なものであるべきだと考えている人は、スパムメールがいかにひどいものであったか、また、運営会社による規制やフィルタリングがない状態のSNSがどのようなものであったかを覚えていないのかもしれない。
民主主義の世界では多くの場合、公的機関と民間の利害が一致することで、誤情報の定義が実現されており、互いに牽制しあっている。この敵対的なシステムの基盤となっているのが一般の人々である。
一般の人々は民主主義においては有権者であり、自分たちの代表者や指導者が自分たちの利益のために働いてくれることを望んでいる。彼らは消費者であり、顧客であり、従業員であり、事業主でもある。そのため、より良い、より安い、より速い、よりユーザーフレンドリーなサービスを求めている。
新しいテクノロジー、新しいトレンド、新しい法律が私たちの社会を構成しており、常に変化を続ける力の三角関係を形成している。SNSは双方向のコミュニケーションを可能にしたため、すべての人をグローバルなリーチを持つ「パブリッシャー」に変化させた。
しかし、出版に関する法律をすべての個人に適用することはできないため、説明責任に関する議論が続いている。
暴力の扇動は擁護できない
Trump氏が米国大統領だったころ、TwitterはTrump氏のアカウントを凍結し、プラットフォームから彼を永久に追放した。Twitterの判断が正しかったかに関しては誰もが意見を持っており、合法であったかの議論も生まれた。
筆者の見解としては、暴力の扇動は擁護できないため、Twitterの判断は正当であり、合法だったと思う。Twitterは自社の利益と顧客のために民間企業として動く権利があった。それが民間システムの仕組みだ。
皮肉なことに、Trump氏の支持者の多くは、Twitterの利用禁止処分を共産主義のころの中国やソ連と比較した。
しかし、それはまさに正反対だ。
権威主義的な政権下では、政府が不適切とみなしたアカウントや企業は凍結、解体される。民間企業が公務員のアカウントを凍結することは、独裁政権では絶対に起こりえない。SNSの運営企業の権力が強すぎて、さらなる規制が必要という意見もあるかもしれないが、本件がTwitterによる圧制とは言えない。
ドイツのMerkel首相が、Trump氏のTwitterからの追放を問題視していると述べたところ、Trump支持者たちからすぐに賛成の声が上がった。
しかし彼らは、ヨーロッパでは国家による言論の規制が厳しいことを知らないのだろうか。Trump氏と支持者による発言の中には、ドイツなどではヘイトスピーチや扇動に該当するものもあり、Twitterよりも、はるかに強力な禁止措置がとられることになる。
米国では、Twitter同様禁止される可能性はあるものの、Trump氏は選挙に関する嘘を他のプラットフォームで自由に投稿し続けることができる。多くの共和党員や支持者が、投票機のハッキングや操作などにより選挙が不正操作されたと虚偽の告発をしたところ、投票機の製造元は、このような主張を広めている個人やメディアを訴えると脅迫した。
その結果、製品とその完全性に関する誹謗中傷の根拠を提供できないことから、コメントを撤回した人が多かった。非常に米国らしい解決策だが、これも常に変化し続ける三角関係の一部だ。
最後に、すべての人が幸せになったり、不幸になったりするような完全な均衡は存在しないということを理解することが重要だ。法律はテクノロジーとともに、不均一で予測不可能な形で進化していく。
遅く見えることもあるかもしれないが、基本的には正しい方向に進んでいる。顧客、有権者、国民であるわれわれは関与し、情報を得て、企業や政治家に無視されないようにすることが大切だ。
この記事は2021年2月17日に公開されたThe free speech triangleの抄訳です。