この数年間、オンラインで募金を行う「クラウドファンディング」(クラファン)が日本でも普及しています。学校の文房具や葬儀費用など、あらゆる目的のために、誰でもウェブページを作成し、SNSで拡散することができます。しかし、クラウドファンディングは簡単にお金を集められるだけに、詐欺に悪用するケースも少なくありません。
アバストでは、その一例をYouTubeにて発見しました。この動画では、病院の患者衣を着た女の子が、自分はがんを患っていて、家族が治療費を払えないことを説明、「私は死にたくない」などと泣きながら助けを求めます。動画には、視聴者がすぐに寄付できる募金ページへのURLが貼り付けられています。
アバストのThreat Operations AnalystであるPavel Novakは次のように述べています。「この女の子が実際に誰なのか、彼女や彼女の家族がどのような状況にあるのかを知ることはできませんが、この動画が詐欺であり、すでに寄付された64万米ドル以上(日本円にして約8,600万円)が治療に使われることはないということは、確実に分かっています。この女の子が登場する動画はアラビア語、フランス語、ポルトガル語、スペイン語、ヘブライ語で拡散されており、また、別の少女が登場する同様の動画も確認されています。」
これらの動画の合計視聴回数は、1,000万回以上に上ります。アバストの脅威研究所は、以下のことも確認しました。
- すべての関連ドメインが登録されたのはごく最近
- 連絡先として匿名の怪しいメールアドレスが使われている(例:6554997@gmail.com、asd1010850@gmail.com)
- 別の動画に登場し、異なる地域にいると思われる女の子たち「Alexandra」と「Ariela」のメールアドレスが同じである
- 募金ページに記載されている住所は、エルサレムにある家になっており、動画に登場する女の子との関連性が怪しい
さらに、動画は「がんが全身に広がった」などの誇張表現を使っていますが、このように具体性に欠けるメッセージは、オンライン詐欺によく見られます。実際、がんが体全体に広がっているのであれば、治療を受けるのにはもう遅い可能性もあります。
Novak氏はさらに、次のように述べています。「この詐欺は人々の利他的な側面につけ込んているだけでなく、本当に病気であるかはさておき、実在する女の子を利用して、その子の動画を盗んだか、演技させたことが、とくに悪質で非倫理的です。クラウドファンディングやチャリティに対する人々の信頼を損ない、本当に困っている人や資金を必要とする団体からお金を奪っているのです。」
アバストの研究者は、この詐欺を発見した48時間以内に、検出した関連ウェブサイトへのアクセスをすべてブロックし、約1,000人のユーザーを保護しました。また、動画と関連ウェブサイトを、ドメインが登録されているイスラエルのコンピュータ緊急対応チーム(CERT)に詐欺を報告しました。
しかし、同様の詐欺が、今度はメールで拡散されているようです。この新しい詐欺は動画詐欺と関連していないと推測されますが、同じような手法です。動画でもメールでも、オンラインで見たものはすべて慎重に扱い、「寄付する」をクリックする前に一度立ち止まって、詐欺かどうか考えてみましょう。
この記事は、2022年7月26日に公開された'Cancer Girl' scam has stolen more than half a million dollarsの抄訳です。